脂質異常症(高脂血症)(高コレステロール血症)
脂質異常症とは
血液中の脂肪分(コレステロールや中性脂肪)が多い、または少ない状態のことを言います。
もともとは「高脂血症」と呼ばれていましたが、現在は「脂質異常症」の一部に含まれています。
血液中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)や中性脂肪が基準値より高すぎても、HDLコレステロール(善玉コレステロール)が低すぎても動脈硬化を引き起こす原因となります。
脂質異常症は、自覚症状がないことが多く、「サイレントキラー」とも呼ばれています。しかし、放置すると動脈硬化を引き起こし、脳卒中や心筋梗塞などのリスクが高くなります。だから脂質異常症は危険なのです。
実は推定患者数は220万人ともいわれており、年々数は増えています。
脂質異常症診断基準
LDLコレステロール | 140mg/dL以上 | 高LDLコレステロール血症 |
---|---|---|
120~139mg/dL | 境界域高LDLコレステロール血症** | |
HDLコレステロール | 40mg/dL未満 | 低HDLコレステロール血症 |
トリグリセライド | 150mg/dL以上(空腹時採血*) | 高トリグリセライド血症 |
175mg/dL以上(随時採血*) | ||
Non-HDLコレステロール | 170mg/dL以上 | 高non-HDLコレステロール血症 |
150~169mg/dL | 境界域高non-HDLコレステロール血症** |
*基本的に10時間以上の絶食を「空腹時」とする。ただし水やお茶などカロリーのない水分の摂取は可とする。空腹時であることが確認できない場合を「随時」とする。
**スクリーニングで境界域高LDL-C血症、境界域高non-HDL-C血症を示した場合は、高リスク病態がないか検討し、治療の必要性を考慮する。
- LDL-CはFriedewald式(TC-HDL-C-TG/5)(ただし空腹時採血の場合のみ)。または直接法で求める。
- TGが400mg/dL以上や随時採血の場合はnon-HDL-C(TC-HDL-C)かLDL-C直接法を使用する。ただしスクリーニングでnon-HDL-Cを用いる時は、高TG血症を伴わない場合はLDL-Cとの差が+30mg/dLより小さくなる可能性を念頭においてリスクを評価する。
- TGの基準値は空腹時採血と随時採血により異なる。
- HDL-Cは単独では薬物介入の対象とはならない。
脂質異常症の症状
脂質異常症の初期段階では、自覚症状がないことがほとんどです。しかし、進行すると以下のような症状が現れることがあります。
- 胸痛
- 息切れ
- 歩行障害
- 頭痛
- めまい
- 手足のしびれ
これらの症状がある場合は、早めに医療機関を受診することが大切です。
脂質異常症の合併症
脂質異常症は、自覚症状がないことが多く、「サイレントキラー」とも呼ばれています。しかし、放置すると動脈硬化を引き起こし、以下の合併症のリスクが高くなります。
1. 虚血性心疾患
- 狭心症: 胸痛、息切れなどの症状が現れます。
- 心筋梗塞: 心臓の筋肉に十分な血液が供給されなくなり、死んでしまう病気です。突然の激しい胸痛、息切れ、動悸などの症状が現れます。
2. 脳卒中
- 脳梗塞: 脳の血管が詰まり、脳の細胞が死んでしまう病気です。麻痺、言語障害、歩行障害などの症状が現れます。
- 脳出血: 脳の血管が破れ、脳内に血液が流れ出す病気です。頭痛、嘔吐、意識障害などの症状が現れます。
3. 末梢動脈疾患
下肢虚血: 足の血流が悪くなり、歩行痛や安静時痛などの症状が現れます。進行すると、壊疽や切断が必要になることもあります。
4. その他
合併症のリスクを高める因子
脂質異常症の合併症のリスクを高める因子には、以下のようなものがあります。
- 年齢: 年齢とともに動脈硬化が進行するため、合併症のリスクも高くなります。
- 性別: 男性は女性よりも合併症のリスクが高い傾向があります。
- 喫煙: 喫煙は動脈硬化を促進するため、合併症のリスクを高めます。
- 高血圧: 高血圧は動脈硬化を促進するため、合併症のリスクを高めます。
- 糖尿病: 糖尿病は動脈硬化を促進するため、合併症のリスクを高めます。
脂質異常症の原因
脂質異常症の原因は、遺伝的な要因と生活習慣の要因が複雑に絡み合って起こると考えられています。
遺伝的な要因
脂質異常症のリスクを高める遺伝子が存在します。遺伝的な要因で起こる「家族性高コレステロール血症」というものがあります。遺伝性ではないタイプの脂質異常症と比較してLDLコレステロールの値が著しく高く、動脈硬化が進行しやすいことが多いです。
血縁家族で脂質異常症や60歳未満などで心筋梗塞を起こした方がいる場合、家族性高コレステロール血症の可能性が高いです。受診の際には、家族歴も医師に伝えるようにしましょう。
生活習慣の要因
大きく6つあります。
- 過食
- 運動不足
- 肥満
- 喫煙
- アルコール摂取過多
- ストレス
お腹の中に脂肪が蓄積される「内臓脂肪型肥満」の方はLDLコレステロールや中性脂肪が多くなり、HDLコレステロールが少なくなりやすい傾向があります。生活習慣病と言われている脂質異常症。男性は若くても油断禁物で女性は更年期にあたる50歳前後から注意が必要と言われています。
脂質異常症と診断されたらまず取り組むべきこと
1. 医療機関受診
脂質異常症を指摘されたら内科を受診し、専門家に相談する必要があります症状がないから大丈夫という油断は禁物です。
2. 禁煙
タバコはHDLコレステロールを減らすだけでなく、LDLコレステロールの酸化を促す作用があるため禁煙は重要です。酸化したLDLコレステロールは血管壁を傷つけて蓄積し、動脈硬化の直接的な原因にもなります。当院では禁煙外来も行っております。
3. 食生活の改善
- 飽和脂肪酸(肉の脂身やバター、ラード、生クリーム等)を控える
- 甘いもの、お酒、糖質の摂取量に気を付ける
- ビタミンC・Eを多く摂る
- 魚、食物繊維、大豆食品を積極的に摂る
ということを意識しましょう。
中性脂肪が高い人は、甘いもの、アルコール、油もの、糖質等の摂取過多が原因であることが多いため、摂取量を見直すようにし、青魚を積極的に摂取するようにしましょう。
脂質異常症の治療法
脂質異常症の治療法は、病型や症状、年齢、生活習慣などによって異なります。
脂質異常症の方は、基本的には月に1度の来院、約3~4ヶ月に1回の採血によるフォローをおすすめします。
- 生活習慣の改善: 肥満解消、運動療法、禁煙、食生活の改善などが重要です。
- 薬物療法: 生活習慣の改善だけでは十分な効果が得られない場合は、薬物療法が必要になります。
薬物療法においては、生活習慣によって様々な原因と様々な薬があります。当院では経験豊富な医師と管理栄養士が連携を取りながら、栄養指導も行い生活習慣の改善をサポートしたうえで、多くの種類の中からその人の状態に合わせた薬を処方し、ライフスタイルに合わせた治療を進めます。
脂質異常症は、早期発見・早期治療が重要です。 健康診断で脂質異常症を指摘されたり、気になる症状がある場合は、早めご相談ください。
脂質異常症のよくある質問
Q脂質異常症の薬はいつから飲み始めますか?
A生活習慣の改善だけで血圧が十分に下がらない場合や、合併症がある場合などは、薬物療法が必要となります。
薬をいつから飲み始めるかは、医師の判断によって異なります。採血結果や、年齢、合併症の有無などを総合的に考慮して判断します。脂質異常症の薬は、長期にわたって服用する必要があります。服薬を中断したり、勝手に量を減らしたりすると、効果が低下したり、副作用が出たりする可能性があります。医師の指示に従って、正しく服用することが大切です。
Q脂質異常症の薬を飲み続けなければいけないのですか?
A一般的には、脂質異常症の薬は 一生涯服用する必要があります。
薬を飲み続ける理由
- 脂質異常症は完治する病気ではない: 脂質異常症は、遺伝的な要因と生活習慣の要因が複雑に絡み合って起こる病気です。生活習慣の改善によって脂質値をある程度まで下げることはできますが、根本的な原因を治すことはできません。
- 放置すると合併症のリスクが高まる: 脂質異常症を放置すると、動脈硬化を引き起こし、脳卒中や心筋梗塞などの合併症のリスクが高くなります。
- 薬物療法は脂質値を効果的に下げ、合併症のリスクを減らす: 脂質異常症の薬は、LDLコレステロール値や中性脂肪値を効果的に下げ、合併症のリスクを減らすことができます。
薬をやめるとどうなる?
薬をやめると、脂質値が再び上昇し、合併症のリスクが高くなります。
ただし、以下のような場合に限り、医師と相談しながら薬を減量・中止できる可能性があります。
- 生活習慣の改善によって脂質値が目標値を十分に下回っている場合
- 高齢で、薬の副作用が強く出ている場合
- 他の病気で、薬の相互作用が懸念される場合
薬を減量・中止する場合でも、定期的に脂質値を測定し、合併症のリスクを監視する必要があります。
Q脂質異常症の食事療法について教えてください。
脂質異常症の食事療法は、脂質値を目標値に下げ、合併症のリスクを減らすことを目的としています。
食事療法のポイント
まずは、以下の3つのポイントを意識してください。
- 外食が多い場合は、脂質や塩分の量に注意する。
- ゆっくりとよく噛んで食べる。
- 規則正しい時間に食事をとる。
細かいのポイントは以下の通りです。
- 飽和脂肪酸を減らす: 肉類の脂肪、乳製品の脂肪、ココナッツオイルなどに多く含まれます。
- コレステロールを減らす: 動物の内臓、卵黄、エビなどに多く含まれます。
- 食物繊維を多く摂取する: 野菜、果物、きのこ、海藻などに多く含まれます。
- 不飽和脂肪酸を適度に摂取する: 青魚、ナッツ類、オリーブオイルなどに多く含まれます。
- 糖質の摂取量を控える: 白米、白パン、お菓子、ジュースなどに多く含まれます。
- 塩分の摂取量を控える: 高血圧のリスクも高めるため、注意が必要です。
- 適正体重を維持する: 肥満は脂質異常症のリスクを高めます。
Point
- 主食は、白米よりも玄米や雑穀米を選ぶ。
- 肉類は、赤身肉よりも鶏肉や魚肉を選ぶ。
- 魚類は、青魚を積極的に摂る。
- 野菜、果物は、1日350g以上を目標に摂る。
- 乳製品は、低脂肪乳や無脂肪乳を選ぶ。
- 卵は、1日1個程度に控えめに摂る。
- オリーブオイルは、料理に活用する。
- 水分を十分に摂る。